映画『テルマ&ルイーズ』
ハリウッド映画史に残る名作ロードムービーをご紹介します。
ラストシーンありきの作品なので盛大にネタバレしたレビューを書きます。長いです。
あらすじ
高圧的な夫との愛のない毎日を過ごしている専業主婦テルマと、気が強くしっかり者のウェートレスのルイーズ。
2人はルイーズの勤め先の上司の計らいで、山沿いの別荘への小旅行に行くこととなる。
意気揚々と出発した2人だったが、普段楽しいことがないテルマが羽を伸ばしすぎたためにクラブで襲われかけてしまう。
そして護身用の銃で、テルマを襲おうとした男を撃ち抜いてしまったルイーズ。
女同士の旅行のはずが、全力で警察から逃げる逃避行になってしまった。
旅先で羽目を外した夜
専業主婦のテルマは、威圧的で浮気性の夫に常に怒鳴られ、束縛される毎日を過ごしています。
ルイーズと旅行に出かけることも夫の怒声に怯えて言い出せず、書置きだけ残してこっそりと出発するほど。
夫の命じるがままに家事全般をすることに特化してしまった結果、働いているルイーズと反対に世間知らずな描写が目立ちます(旅行の荷物がやたら多い、要らないものも持ってくる、防犯意識の低さなど)。
10代の頃に付き合い始めた夫と、20歳を迎える前に結婚した彼女は、遊び方も、自分で自分の行動を判断することも忘れてしまっていました。
そして、ナンパされ、夫以外の男性から心地よいお世辞を聞いたことで浮かれてしまい、ろくでもない相手にホイホイついて行った結果襲われかけます。
間一髪のところでルイーズが駆けつけ、恐怖に号泣するテルマを救出しますが、彼女たちを嘲笑うかのような発言に激昂したルイーズは男を射殺してしまいました。
テルマの変身
「襲われたから正当防衛したなんて言っても誰も信じてくれない。逃げなきゃ」というルイーズに引きずられるようにして、テルマもその場から逃亡します。
メソメソ泣いているテルマとは対照的に、ルイーズはするべきことを冷静に判断して、逃走ルートと目的地を設定。恋人にも助力を依頼します。
テルマは動揺してオロオロするばかりで、彼女自身もこの事態を招いた原因だと理解しているのかすら疑問です。
それどころか、ルイーズが四苦八苦して用意したお金をナンパしてきた保護観察中の若い男に盗られるわ、逃亡目的地を彼に話して警察にも知られるわで、良いところがありません。
しかし、この後のテルマの行動力と変貌ぶりがあまりに鮮やかなので、観ている人間はルイーズと一緒に呆気にとられざるを得なくなります。
強盗経験者の男から教えてもらったノウハウで、テルマは誰一人傷つけず商店のレジの大金をかっさらいます。
彼女たちの行動パターンが急に変わったので、追い続けている警察も「一体こいつら何なんだ」と首を傾げる事態に。
最初はルイーズに何もかも任せ、笑ったり泣いたりリアクションしているだけだったテルマが、彼女を抑圧する夫ダリルの元を離れ、窮地に追い込まれたことで自分を取り戻し、考える力も取り戻したわけです。
終盤で彼女がしっかりとした口調で「どんな結果になったとしても、この旅行は最高のバカンスよ」という趣旨の発言を繰り返していたのが印象的でした。
序盤、「こういう頭悪そうな女の人苦手だなあ、絶対仲良くなれない」と思っていましたが(実際、「女の友情って脆い」と思わせる場面が何度かあります)、最後はテルマの変わりように釘付けでした。
環境が人を作ることを否応なく訴えてくるキャラクターです。
ルイーズの過去
「何で正当防衛を訴えて自首しないの?」と思った人も多いことでしょう。
ルイーズは警察に自首することを頑なに拒み、親身な刑事が出頭するように諭しても聞く耳を持ちません。
詳細は最後まで明かされないものの、下記のような場面からは、テキサスで彼女自身が襲われるような事件があったであろうことが察せられます。
- 強姦未遂の現場を見られ「テルマとじゃれあっていただけ」と嘯く男に対し、「こういう泣き方は本気で危険を感じている時の泣き方」と断言する
- 「襲われそうになった女の正当防衛なんて誰も信じない」と主張
- 「テキサスは強姦の被害者の方が悪者にされるようなところ」と発言
- 彼女と電話した刑事が「テキサスで何があったかは知っている」と発言
ルイーズは強い女性ですが、たまにその強さが痛々しく見えることがあります。
過去にあった辛いことや、大変な状況に直面しても感情をぐっと押さえているのが伝わるからかもしれません。
突如勃発した事件によって、恋人ジミーと会えなくなってしまうのは切ないのですが、終盤の爽快な感じや、彼女たちを心配する刑事が止めたにも関わらず崖に突っ走っていくラストシーンでは、ルイーズもまたテルマと同様、後悔していないことが窺えます。
おわりに
この映画はアメリカの連続殺人犯アイリーン・ウォーノスと、恋人ティリア・ムーア(女性です)の逃避行をモチーフにしているそうです。
とは言え、女性2人の破滅的な逃避行というアイディアを下地にしただけで、全く別の人物像を編み出したと言えるでしょう。
事実に通じる部分があるとすれば、男性性への反抗でしょうか。
アイリーン・ウォーノスを描いた映画は他に、シャーリズ・セロン主演の『モンスター』があり、こちらはより忠実にウォーノスの生い立ちや犯行を描いています。
彼女が性的に搾取される姿と、次第に殺人鬼へ変わっていく様子が描かれているのですが、その過程は男性たちに自らの女性性を踏みつけにされたことへの復讐にも見えるからです。
しかし、『モンスター』が陰惨そのものである一方、 『テルマ&ルイーズ』はヒロイン2人の反抗精神を感じつつも爽快ささえあります。
ラストシーンもこれ以上ないほど完璧な締めくくり方です。
痛快なヒロインの活躍を観たいと言う時にぜひお勧めの映画です。