本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

小説『深い疵』

初めて小説をご紹介します。

ドイツ発の推理小説です。

舞台はフランクフルト近郊の刑事警察署で、オリヴァーとピアという2人の警察官が主人公です。

オリヴァー&ピアシリーズは本作が3作目。

シリーズの中で最も人気の高いものから日本語訳が発表されたため、本作が日本語訳第1号でした。

 

 あらすじ

米国大統領顧問を務めた著名なユダヤ人の老人が、自宅で射殺されているのが発見され、オリヴァーとピアたちのチームが捜査に着手する。

明らかになったのは、被害者がユダヤ人ではなく、ナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実だった。

しかしその後、現場に残された謎の数字の意味も、犯人もわからないまま、第二、第三の殺人が発生する。

被害者同士の共通点を探る内に、フランクフルト地域の富裕な老女ヴェーラ・カルテンゼーが浮かび上がる。

 

緻密な伏線

そういうことだったんかいな!と言いたくなる数多の伏線が、鮮やかに回収されます。

 終盤の怒涛の伏線回収タイムは驚きが多すぎて、最早「はあー」という感嘆の声しか出ません。

物語の序盤や中盤にも、手がかりは多数与えられているはずなのですが、私は考えても全く謎の答えにつながらず煩悶していました。

特にヴェーラを取り巻くカルテンゼー家の面々は、辿れば辿るほど怪しい人間ばかりで、どんどん謎が深まります。

しかし、文章が読みやすいのと、キャラクターの人間味ある描写がリアルなのとで、謎や手がかりが次々出てきても情報過多感がなく、すいすい読めました。

 

登場人物の描写

主人公であるオリヴァーとピア、刑事警察署の面々、事件関係者に至るまで、人物描写が巧みでリアルです。

何らかの役割を追ってこの物語に登場しているんだなあ…という印象が誰にもなく、まるで本当に人間が生きて行動しているのを観察している気持ちになります。

人間味の描写が行き過ぎず、各人物の多面性のバランスが絶妙なのでしょうね。

私生活に変化を抱えながらも、仕事を頑張っているピアを応援したくなる人は多いと思います。

 

 過去のこと

ある人物が隠し続けていた辛い過去が今回の事件の鍵になります。

映画レビューの方でも何度か似たことを書いていますが、何かをなかったことにして生きていこうとした人は、きっと想像以上に多いのだと思います。

真相がわかった後、悲しい余韻が頭の中にいつまでも残り続けました。

謎の解決具合としてはこれ以上ないほど見事にパズルのピースがはまるのですが。

しかし、悲惨なことばかりではなく、希望も漂うラストシーンなのが救いのあるところです。

 

まとめ

謎の深さも謎解きの鮮やかさも申し分ない一作です。

登場人物たちも、現実離れしない程度に個性が光っていてぐんぐん読み進められます。

複雑な余韻が残る謎の解明となりますが、希望の持てる終わり方をしている一面もあります。

ヨーロッパのミステリーを読んでみたいという方、緻密な本格ミステリーを楽しみたい方に一押しの本です。

 

  

深い疵 (創元推理文庫)

深い疵 (創元推理文庫)

 

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