本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『勝手にふるえてろ』

邦画屈指の鬱屈ラブコメをご紹介します。

ヒロインの松岡茉優ちゃんが好きということもあり、最初から最後まで楽しかったです。

妄想好き陰キャには間違いなく共感の嵐になります。

 

あらすじ

今まで誰とも付き合ったことのないOLのヨシカには、中学生の時からずっと片思いを続けている同級生イチがいた。

みんなから注目されるイチに、在学中アプローチすることはおろか、卒業してからも何もコンタクトはないまま20代中盤を迎えていた。

ある日、働いている会社の同僚であるニから告白され、人生初の経験に歓喜するものの、やはりイチのことは頭から離れない。

ヨシカは、いつ死ぬかわからない人生ならいつ死んでも悔いのないようにと一念発起し、別人になりすまして同窓会を企画する。

一方ニは、ヨシカの煮え切らない態度にも関わらず何の疑念もなしに彼女と過ごしていた。

 

奥手なこじらせ女子

ヨシカは自分の欲望や感情を素直に身近な人にさらけ出すことはできないけれど、一方で常に誰かにわかってほしい気持ちも持っている女性です。

日々の妄想や、絶滅した生物のリストに思いを馳せながら、感情を発散しています。

欲望のままに生きたり、素直な感情を優先して振舞うことは、ヨシカにとっては「野蛮で承服しかねる」事態なので、恋愛に対しても行動が起こせません。

結果、中学生の時からクラスの人気いじられキャラだった、ミステリアスなイチに心の中で何年も片思いしています。

クラスで目立たず、友達が多いタイプでもないヨシカは、在学中はおろか卒業後も恋心をただ持つだけでした。

しかし、危うく死にかけた経験をしてから、人生一度きりだと開き直り、別のクラスメイトになりすまして同窓会の招集をかけます。

ここで爆発する火事場の行動力も、こじらせ感あふれてて好きです。

あと、上司に変なあだ名つけてディスったり、経理課の仕事なめんなという気持ちを営業課に対して出しちゃう人間味も好きです。

人に好かれて当然と思ってない分、打ち解ける勇気もないけど、好かれたいと思ってないからこそ、失うものもないんですよね。

 

ヨシカを思う人々

ヨシカに思いを寄せる営業課のニは、当初は調子に乗ったないしはイキってる凡庸な若者に見えます。

でも、だんだんと一途さやヨシカに対する優しさが伝わってきて好感度が爆上がりします。

器用さはない反面、裏表もなく素直な人物です。

ヨシカの経理課の同僚の来留美も、恋愛経験ゼロのヨシカに押し付けないアドバイスをしてくれる頼もしい存在。

客観的に見れば、イチへの思い出なんか捨てて、いまヨシカを大切にしてくれる人を大事にして生きていきなよ!と思うのですが、そうはいきません。

なぜならこじらせているから。

誰かにわかってもらうことより、自分の内面世界を大事に生きてきたヨシカには、長年の思いを捨てることなど簡単にはできません。

彼女が劇中で口にするとおり、ヨシカが内面を明かさないのは、「自分の気持ちになんて誰も興味ない、わかってもらえるわけない」という思いからです。

だからこそ、明らかに彼女に興味を示しているニの前で安心して気持ちを解放したらいいじゃん!と思うのですが、そんなことはできません。

これまで孤独にイチを思い続けてきた気持ちが、なかったことになるなんて寂しすぎるからです。

片思いだからこそ、ヨシカが忘れてしまったらその気持ちを認める存在がいなくなってしまうからです。

 

世界とぶつかること

今まで内面世界で生きてきたヨシカが、ついに世界と向き合わざるを得ない瞬間がやってきます。

同窓会をきっかけにイチとの交流に成功したからですが、そこで彼女は予想外の結果に向き合います。

そして、ほぼ時を同じくしてニにも、絶対に知られたくなかった恋愛経験ゼロの事実を(信頼していた来留美経由で)知られてしまいます。

ヨシカが内面を隠すのは「情けない(と自分で思う)部分を知られたくない」のも理由の一つでしょうから、この事実はかなりの破壊力をもって彼女に襲いかかります。

全力で社会とのつながりを絶って引きこもるわけですが、絶望を乗り越えてこそ成長や発見があるわけで、ヨシカは思ってもみなかった結末を迎えます。

破れかぶれだけどよく頑張ったよヨシカ!

多分これからも色々あるけど、殻を破った後の発見を胸に生きていくことが重要なんよ!

と言いたくなるラストでした。

 

おわりに

学校時代を紛れも無い陰キャとして過ごした私には、あるあるすぎる場面が多々ある映画でした。

あと数年観るのが早かったら、胸が苦しくて最後まで見られなかったかも。笑

松岡茉優ちゃんが、もがき苦しむこじらせ女子を好演しています。

邦画ラブコメのおすすめを訊かれたら、迷わず推薦したい作品です。

 

 

 

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