本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『アパートの鍵貸します』

名脚本家ビリー・ワイルダーによる不朽のコメディをご紹介します。

クリスマスの時期に観たい映画の一つ。ネタバレします。

 

 

あらすじ

ニューヨークの保険会社で平社員として働くバクスターは、自分のアパートを愛人との密会場所として課長たちに提供している。

そのかわりに彼らからの人事評価を上げてもらっていたのだ。

ある日、課長たちに自室を貸していることが部長のシェルドレイクに知られてしまうが、驚いたことに部長からも密会場所の提供を依頼される。

そればかりか、部長からスピード出世を約束される事態に。

上機嫌なバクスターは、前々から気になっていたエレベーターガールのフランをデートに誘うが、彼女には既に付き合っている相手がいた。

 

地味だけど良質なコメディ

1960年公開の映画なので、特殊効果も派手なロケもラブシーンもありません。

会社や家といった舞台で、台詞と人間関係による物語の展開で映画が進んでいきます。

台詞のあちこちにひねりがあったり、バクスターの人間味にクスッとなったり、飽きさせない工夫が細かいです。

そして、前半に「ふーん」と思いながら眺めていた人やものが、後半で「伏線だったのかー」となるパズルのはまり具合がお手本のよう。

なるほど!と後半の展開に唸らされる人は多いはずです。

 

60年代を生きる登場人物たち

バクスターやフランは、昨今思い描かれるアメリカ人男性・アメリカ人女性のステレオタイプや、よくいる主人公像とは全く異なっています。

バクスターは典型的な「断れないタイプ」のサラリーマンです。

本当は密会場所の提供を止めて、好きな時に自分の部屋に帰れる生活がしたいと思いつつも、なかなかやめられません。

上司に媚びなくても評価を得られる優秀さがあるわけでもなく、

言いたいことをはっきり言える豪胆さもなく、

フランにいち早くアプローチできるわけでもない、普通の勤め人です。

フランもまた、見た目が美しいのは魅力的ですが、

道ならぬ相手との関係にはっきり終止符が打てるわけでもなく、

男性の助けなしにかっこよく人生を切り開くタイプでもない。

現代のハリウッド映画からすると化石みたいな人物像です。

でも、観ているうちにバクスターを思わず応援したくなったり、

フランに「ちーがーうーだーろー!」とツッコミを入れたくなるのは、

この二人にいわゆるヒーローやスーパーヒロインぽくない、共感しやすさがあるからでしょう。

 

踏んだり蹴ったりのバクスター

この映画の古典的なところで一番ポジティブな点は、いつも損をしそうなタイプのバクスターが報われるところかもしれません。

断り切れない、大事なことがなかなか言えない、据え膳が食えないタイプの彼は、昨今のハリウッド映画にはモブキャラとしてすら登場できないでしょう。

でもこの作品では、踏んだり蹴ったりの目に遭いながらも、その奮闘ぶりを認めてくれる人に出会えます。

ラストシーンの地味さも、彼らしく(彼ららしく)、そしてこれまでのストーリーを観てきた人からするとニヤッとしてしまう展開です。

 

おわりに

同じビリー・ワイルダーによる『麗しのサブリナ』と同様、上品なラブコメでしたが、こちらのほうが展開が込み入っていて完成度が高いです。

どちらも主人公と男性陣のドタバタで笑わせつつ、「本当に大事な人は誰?」とヒロインに問いかけるような展開があるのが楽しかった。

登場人物たちのキャラクターも、見た目も、現実離れしすぎないところに収まっていたのが好感度高かったです。

クリスマスにのんびり笑いながら観たい映画です。

短いですが、今日はここまで。