本と映画と時々語学

書評、映画評、時々語学学習や時事ネタなど書き綴りたいと思います。

映画『スパニッシュ・アパートメント』

ヨーロッパの交換留学生を主人公とした青春映画をご紹介します。

学生あるある、留学あるあるを思い出してぐっと来てしまう作品でした。

 

 

あらすじ

パリの男子学生グザヴィエは、父の知り合いから、将来EU統合関連の仕事に就けるよう、スペイン経済について勉強することを進められる。

導入間もないエラスムス制度を利用して、スペインの大学に留学することにしたグザヴィエ。

恋人マルティーヌや家族と離れ、色々あった末に新天地バルセロナに辿り着く。

何とか住居を見つけ、カタルーニャ語の講義がわからなかったりしながらも学期が始まった。

到着して間もなく知り合った医師夫婦や、ヨーロッパの様々な国から留学に来たルームメイトたちと、恋に学びに賑やかな留学生活が続いていく。

 

文化のるつぼ

グザヴィエが利用したエラスムス制度は、ヨーロッパ人の学生がヨーロッパ中のどこの大学でも留学できるように、交換留学を円滑化した制度です。

他国で学位をとるのではなく、半年から一年ほどの期間限定で相手方大学に籍を置き、単位を取得したら母国の大学での単位として認められます。

フランスからスペインに留学したグザヴィエですが、他の国からも多数の留学生が来ていました。

グザヴィエのルームメイトは、スペイン人の女子学生1人を除いて皆が留学生です。

デンマーク、イタリア、イギリス、ドイツ、ベルギー、出身国は全員違います。

フランス人のグザヴィエと同郷の人はいませんが、フランス語を話せる学生はいます。

しかし、全体を通してほとんどスペイン語か英語でコミュニケーションしていました。

ヨーロッパ留学経験がある方なら、彼らの暮らしぶりが細部までリアルなものだと分かるかと思います。

いろんな言語で電話がかかってくるので、「誰々は今いません」をどう言うのかをそれぞれの母国語で壁に貼っていたり、

お互いの文化的文脈がわかってくると、決して冗談で触れてはいけないネタが分かってきたり、

ヨーロッパの国同士なら何となくお互い個性を認め合っているけど、アメリカのことは押しなべてアホだと認識する、などなど。

多様な留学あるあるが繰り出されてきますが、留学経験なしに観てもコミカルで楽しい場面が続きます。

原題の“L'auberge Espagnole”は、直訳すると「スペインの宿」ですが、フランス語の慣用句で「ごちゃまぜ」を意味します。

劇中でも意味が紹介されていますが、ぴったりなタイトルでした。

 

学生あるある

様々な国からの学生と刺激しあい、多様な学びを吸収していると言えば凄そうに聞こえますが、学生は学生です。

週末のナイトライフや色恋沙汰も生活の大きな一部、というかむしろそちらが本業です。

主人公グザヴィエはパリにいるマルティーナとの遠距離恋愛をしつつ、

ルームメイトのイザベルが気になり、

バルセロナで出会ったフランス人の人妻アンヌ=ソフィにも道ならぬ感情を抱きます。

何かこの、ちょっときっかけがあればすぐにでもロマンスが訪れそうな感じが、学生あるあるすぎて胸が痛くなります。

ともすればすべてが甘酸っぱい思い出になりそうです。

勿論ほろ苦いのもあります。

それもまた学生ならではかもしれません。

学生のほろ苦エピソードは、社会人になってから同じことをやらかしたら、ほろ苦どころじゃないダメージをもたらすことも往々にしてあります。

グザヴィエのみならず、他のルームメイトたちもそれぞれの恋愛に勤しんでいます。

ある1人の浮気がバレないよう、ルームメイトみんなで協力して修羅場を回避する場面は、劇中の重要な盛り上がりの一つです。

 

スペインとカタルーニャ

映画の舞台がバルセロナなので、今話題のカタルーニャ独立騒動の予兆を感じさせる場面がありました。

カタルーニャ語の講義がわからず困っていた留学生を代表し、イザベルが教授に意見します。

留学生にも理解できるようスペイン語で講義してほしいという訴えに、「我々には我々の事情があるから」と教授は応じません。

あとから、イザベルとグザヴィエは、アフリカ系の学生に

「僕たちはカタルーニャ人としてのアイデンティティを持ってる」

「僕はガンビア人でもありカタルーニャ人でもあり、2つのアイデンティティは自分の中に共存している」

と語られます。

その2つが両立するなら何でスペイン人とカタルーニャ人のアイデンティティはだめなん?と思ってしまいますが、

映画が公開された2002年ごろから、バルセロナ市民のカタルーニャ魂は健在だったのだと確認できる場面でした。

 

余韻を残すラスト

ネタバレ防止のために書けないけれど、大した前触れもなくオチが訪れるラストシーンが好きです。

自分自身がしていた1年間の短期留学の記憶と重ね合わせて、共感してしまう場面です。

短くはないけれどあっという間に終わってしまった留学期間を思い出すと、あまりにも今の自分の日常と掛け離れすぎていて、「あれは現実だったのか?」と思うことすらあります。

しかし、学生時代の自分にただならぬ影響を与えたことは間違いがなく、あの場所に行かなかったら、こんな考え方やあんな知識は絶対に自分のものにならなかった、と言える部分が確かにあります。

自分の世界に風穴を開けてくれたあの経験は、もう二度とやって来ないのか?

私はこのまま元いた世界にずっといるつもりなのか?

世界の広さを垣間見てしまったのに、それに耐えられるだろうか?

そういう思いが頭の中で渦巻いて、いても立ってもいられなくなる時があります。

 

おわりに

瑞々しく賑やかで青春真っただ中な、学生生活を謳歌する映画です。

社会人の人が今の自分に激しく落ち込んでいる時は副作用が強いかも…。

何となく学生時代を思い出したくなった時にぜひ手に取ってみてください。

学業も、気の多い恋愛も、友人との他愛なく楽しいどんちゃん騒ぎも、すべてが懐かしく感じられるはずです。 

 

 

 

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