映画『万引き家族』3
思いが有り余る『万引き家族』のレビュー3記事目です。
これまでの記事はこちら。
本記事では亜紀について書きます。
亜紀と祥太について書くつもりが、亜紀ソロで一記事になってしまった。
亜紀
初枝をおばあちゃんと慕い、口うるさい姉のような信代をあしらい、時々りんを可愛がってあげる亜紀。
若いし健康そうだし、天真爛漫な可愛い少女です。
風俗店でアルバイトしているので、家族のなかでは自由になるお金が多い方ですが、家にお金を入れないことを信代に咎められたりします。
でもおばあちゃんに甘えて絡んで乗り切ります。笑
初枝が訪ねて行った亜紀の実家を見るに、どうやら亜紀は一般的なサラリーマン家庭で金銭的には不自由なく育ったようです。
半分廃屋で、水回りもめちゃめちゃ古くて、そこらじゅうとっ散らかっている初枝の家と、新しくて、ちょっと息苦しいくらい整然として清潔な亜紀の実家は、鮮烈な対比です。
父母と妹の四人家族で、妹はまだ中学生か高校生の様子。
短い場面なのですが、ああこの家庭内カーストに耐えられなくて家出たんだろうな…と察しがつきます。是枝監督恐るべし。
家庭内カーストの最上位は母親でしょう。
セリフは一言二言しか言わないけど、そこから余すところなく「不機嫌なVERY妻」ぶりが伝わってきます。
家の中を不機嫌で支配したり、気に入った子ども(次女)だけ優遇したり、この人なら絶対してるだろ…と確信させるに余りある圧迫感。
亜紀の父である夫は引き攣った表情でそれを宥めています。
パートナーたる妻とまともに話し合えずに「お、お母さんが言ってるんだからしょうがないだろ」「お姉ちゃんなんだから言うこと聞きなさい」とか言って亜紀ちゃんを我慢させてたであろうことが目に浮かびます。
扱いに耐えられず亜紀の方から飛び出して行ったのに、初枝の家にいることはわかっているのに、その初枝相手にすら、亜紀が海外留学している体を貫き通して話し続ける。
問題があってもないふりをし続ける不自然で緊張した家庭、なのに次女が出かけるときは連れ立って見送る、これだけで亜紀が飛び出した理由が表現されています。
形骸化した家族なのに、なぜ亜紀がいなくなった事実を直視できないのかといえば、「付き合いを続ける気はもうないけど、あんな奴に自分が『フラれた』という状況には我慢ならない」からでしょうか。
「見放すのは私であってお前ではない」と思ってるからでしょうか。
それとも、娘を愛してない親と世間様から思われるのが嫌だからなのでしょうか。
それらが入り混じった理由なんじゃないかとうっすら想像はつきます。
ただその考えには全く共感できないし、心底したくないです。
こうした父母に素直に甘えるなんて夢のまた夢だったでしょう。
だからこそ対照的に初枝の家では、今まで甘えられなかった分も甘えていたのではないかと推測します。
信代がいるから長女ポジションは負わなくていいし、親子より祖母と孫の方が緊張感はずっと少ない関係です。
亜紀は年金を下ろす初枝に着いて行ってご飯を食べたり、アルバイト先での話をしたり、初枝といると楽しそうで和気藹々としています。(「1192作ろう鎌倉幕府」に亜紀が突っ込むところや、「ドテゴロってなあに?」「童貞殺しだよ」のくだりはいつ思い出しても笑ってしまう。。。)
初枝に話したアルバイト先での働き方は特に印象的です。
彼女の源氏名はさやかで、実の妹の名前を拝借しています。
妹の名前で風俗バイトをすることで間接的に妹を貶めているわけで、初枝はそんな亜紀を「あんたも悪いねえ」と言ってやんわり受け止めます。
いやーあの不機嫌なVERY妻が聞いたら発狂しそうなエピソードですね。
そのバイト先で、亜紀はいつもガラス越しに自分を指名してくれる客と対面することになります。
お客さんは上手く喋れない男性だけれど、他の誰でもなく亜紀を必要としてくれることに気付き、(さやかとして働いているにも関わらず)自分が亜紀だと強く実感できたみたいです。
この経験はきっと、信代とシンクロする部分じゃないでしょうか。
生まれた家族の中に安心できる場所がなくても、家の外に出てそんな人間関係を見つけることはできる。
亜紀と恋話をする信代が「私も店のお客さん好きになった」と言われている場面があったことから、意識して重ね合わせている経過ではないかと思います。
そんな亜紀は、初枝の死後、警察で親が自分の居場所を知っていたこと、親が初枝にお金を渡していたことを知ります。
その絶望は如何ばかりだったか。
屈託なく自分を受け入れてくれるはずだった初枝にとって、亜紀は復讐の道具だったのか、金づるだったのか、と悩んだに違いありません。
お金に関しては、使わずに取ってあったのが見つかっており、すぐさま初枝自身のために使ったわけじゃないことがわかっています。
復讐の道具だったのかという点については、多分その側面は否定できないのではと思う一方で、細かいことはどうでも良くて亜紀を可愛がるのが楽しかったんじゃないかとも思えます。
復讐が動機だったとしても、亜紀に対して大切に思う気持ちを少しでも持っていたのであってほしいと思わざるを得ません。
次は最後の人物、祥太について書きます!
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