本と映画と時々語学

書評、映画評、時々語学学習や時事ネタなど書き綴りたいと思います。

映画『百万円と苦虫女』

平凡なヒロインのちょっと不思議な成長物語をご紹介します。

ネタバレします。

 

 

あらすじ 

ルームシェアするはずだった知人に逃げられ、赤の他人と同居したら、トラブルで警察沙汰になってしまった鈴子。

地元の実家に戻るも、前科者であると噂されてしまい、家族といても居心地が悪い。

鈴子は百万円を貯めたら家を出て、遠く離れた土地で一人暮らしすることにする。

縁もゆかりもない土地に行き、百万円貯めるたびに新たな街へ行く、彼女の不思議な生活が始まった。

 

自立しそうでできない若者

鈴子の物語は踏んだり蹴ったりなスタートを切ります。

短大を出たものの就職が決まらずフリーターになり、実家に居づらくなったのがそもそもの発端です。

しかし、ルームシェアを持ちかけてきたバイト仲間は、知らぬ間に彼氏もメンバーに引き入れ、かつ自分は彼と別れて離脱してしまいます。

ひょんなことからその彼と警察沙汰になり、前科つきで実家に出戻りますが、

親からは腫れ物、弟からは邪魔者、学校時代のいじめっ子からは社会不適合者扱いされます。

いじめっ子には反撃できても、家族に迷惑をかけたくない鈴子は、百万円貯めて家を出ると決めます。

20歳ごろの不安定さは、中学生や高校生とは少し違って独特です。

年齢的には大人だけど、周りと比べて自分はうまく自立できていないように見える、

他の人と比べてちゃんと社会人できている気がしない、と焦りを覚えることは珍しくないのではないでしょうか。

本作は、そんな気持ちを持ったことのあるすべての人に観てほしい映画です。

 

そこに人間がいる限り

誰も自分のことを知らない土地に行けば、一からやり直せる、気楽に暮らせると考えた鈴子は、インスピレーションのままに引っ越し先を決めます。

海辺の町、山の中の田舎町、ちょうどいい規模の都会の町などなど。

海辺の町では海の家で夏らしい雰囲気の中アルバイト、山の町では農家の人の距離感に戸惑いながらも桃の収穫バイト。

でも、誰ともつながりがないから選んだはずなのに、なぜか一人で暮らしていてもしがらみができてしまいます。

彼女のことを好きな人が現れたり、若い女性が少ないからと町のPRに担ぎ出されたり、かたちは色々です。

そのたびに鈴子は新たな町に引っ越します。

人の目や、煩わしい人間関係は気にせずに、自分のペースで生きていきたいからです。

他の人のレビューを読んだときに、「ヒロインは自分探しの旅をしているのではなく、自分から逃げ続ける旅をしている」という表現がありましたが、まさに核心をついたコメントだと思いました。

 

自分と向き合うためには

彼女を好きになって内面に踏み込もうとする人が現れたり、理不尽な要求をしてくる人に包囲されたりしたら、その場所を去っていた鈴子に転機が訪れます。

逃げずに向き合いたい男性が現れて、順調に付き合いが始まります。

けれど、彼はどうも鈴子にお金の面で頼りたがっているようでした。

今まで、とことん他人と向き合ったことのない鈴子は、彼との関係をどうしたものか考えあぐねていましたが、そこへある人物からの手紙が届きます。

地元でいじめっ子に詰られたあと、反撃していた鈴子を見て頑張ろうとしていた、鈴子の弟です。

実家では面と向かって鈴子を罵っていた弟ですが、自分も小学校でいじめられており、彼女のように相手にやり返せるようになろうと決意していました。 

どんな叱責より、彼の手紙は鈴子の心に揺さぶりをかけます。

何かが起こるたびに町から逃げ出していた百万円の旅の中身を、鈴子は変えることに決めます。

 

居場所と自分

大人になってある程度の額を稼げるようになると、家や仕事など、自由に自分の居場所を決めることもできるようになります。

何かあったら場所を変えてやり直せばいいと気持ちを切り替えて、人生が上手くいくこともあるでしょう。

でも、一人で生きられる気がしていても、人間の集まる場所で暮らしていればしがらみができます。

比較的簡単にそこから立ち去れることもあれば、 お世話になった人の手前難しかったり、離脱が難しい役割を負っていてままならない時もあります。

留まるも去るも自分の選択ですが、自分が何をしたいのか、何を始めたくてそこへ来たのか、考えることなく進んでいると壁にぶち当たるときがあります。

そんな時に自分の中身と向き合うことを知っていれば、場所がどこであっても逞しく生きていけるのかもしれません。

 

おわりに

あらすじだけ書くとシンプルなのですが、海や山の景色、映像の雰囲気を楽しみながら観ているうちに、最後の転機で鈴子と一緒に涙してしまいました。

山の田舎の恐ろしさはあまりにリアルだったので、監督か脚本家のどちらかがド田舎出身なんじゃないかと思います。

学生さんや、社会人なりたての若者たちにぜひお勧めしたい作品です。

 

 

 

 

百万円と苦虫女

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