本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『素晴らしき哉、人生!』

クリスマス映画の名作古典をご紹介します。

素朴だけどほろっと泣けてしまうヒューマンドラマです。 

 

 

あらすじ

1945年のクリスマスの夜、一人の男が自殺を図ろうとしていた。

男の名前はジョージ・ベイリーといい、アメリカの小さな町ベッドフォード・フォールズで生まれ育った。

町を出て広い世界を旅し、大きな仕事をすることが、小さなころからのジョージの夢だった。

しかし、高校卒業と同時に父が急逝したことから、「地味な仕事」と思っていた家業(ベイリー住宅ローン社)を継がざるを得なくなる。

その後も彼は、家業を継ぐはずだった弟の婿入りや、彼を憎む町の大富豪ポッターの策略により、町を出て大成することも、新婚旅行することも叶わなかった。

温かい友人や家族に囲まれ、仕事を続けていた彼だったが、ある日仕事が決定的な窮地に陥ってしまう。

自暴自棄になり、命を絶とうと考えていた彼だったが、目の前に現れた天使によって自らの人生を振り返ることになる。

 

ジョージ・ベイリーと言う人物

ジョージは現在のアメリカ映画の主人公像とは異なる人物です。

正義感が強く活動的ですが、故郷ベッドフォード・フォールズを出る夢は叶わず、歴史に残る仕事がしたいという思いも遂げられていません。

高校卒業後に世界を旅しようと思っていたら父が急逝したり、

弟に家業を継がせようと思っていたら婿入りしてしまったり、

家業を誰かに任せて町を出ようとするたび何かが起こります。

また、父の代からそりが合わなかった町の銀行家ポッターがことあるごとに彼の事業を潰そうとしてきます。

家を持ちたい人のために顧客第一で仕事をするベイリー住宅ローンのことが、守銭奴ポッターには目障りだったからです。

特に、法外な家賃をとって運営しているポッターの貸家から住人たちが退去し、ジョージが貸す住宅ローンで家を建てていくことが我慢ならなかったのです。

 

ジョージを取り巻く人物

一方、ジョージが決して妥協せずに叶えた夢もあります。

心から好きな相手と結婚して家族をもうけることです。

ジョージが結婚した幼馴染のメアリーは、美しく謙虚な女性です。

新婚旅行の資金が、ポッターの策略で窮地に陥った事業を救うために使われてしまっても、泣き言一つ言いません。

4人の子どもを育てながら、働くジョージへの思いやりにも溢れています。

古風で淑やかな女性像が、現代にどの程度受け入れられるかはわかりませんが、家族愛に溢れた人物はどの時代でも素直に尊敬すべき人だと思えます。

友人や弟は、ジョージが家業に勤しむ間に町を巣立っていきます。

友人のサムはヨーロッパで成功し、弟ハリーは太平洋戦争で叙勲。

家業で町を出られず、片耳が聞こえないため兵役免除となったジョージは、故郷で彼らの活躍を聞く立場です。

そんな中、業務に必要な大金を叔父が紛失してしまいます。

町を出て大成する夢も叶わず、家業にも行き詰まり、ジョージは自分の人生に一体何の意味があったのかと途方に暮れ、絶望します。

しかし、彼の前に現れた天使(おじさん)が、特例として「ジョージの存在しなかった世界」を見せます。

 

人生の素晴らしさとは

ジョージは、大金を稼いだわけでもなく、誰もが知る偉業を成し遂げたわけでもなく、傍から見たら地味な人生でしょう。

でも、小さな頃に溺れたところを助けた弟、青春時代を共有した友人、動転していたところを救ってもらったアルバイト先の雇い主など、彼に救われた人物は彼のことをずっと大切に思っていました。

そのことは、映画の序盤から既に示唆されているのですが、終盤の幻のシーンで次々とそれを突き付けられ、あっと驚かされます。

ベイリー住宅ローン社の厚情な融資で家を建てられた人々、会社が存続したからこそ失業せずに済んだ従業員など、仕事を通じてもジョージは多くの人を助けていました。

観ている側は、映画序盤からずっと、夢を諦めて平凡な人生を送ったこと、ポッターと言う大富豪相手に苦しくも戦ってきたことに目を奪われてしまいます。

ジョージ自身もそう思ってきたはずです。

旅立とうというときにいつも不運に見舞われてしまう、強敵が立ちはだかる、何も成し遂げられないなら何のために生まれてきたんだろう、と。

だから天使の前で「生まれてこなければよかった」と呟いたのでしょう。

でも、彼のいた世界だからこそ、多くの人が救われてきたことに、終盤で一気に気づかされます。

かつて夢見た偉業とは全く違う仕事をしつつも、彼は彼がいなければ作れなかった町を作っていました。

そのことは映画の最初からずっと、充分すぎるほど詳細に描かれているのに、終盤に天使のみせた幻を見なければ気付かないのです。

観ている私たちだけでなく、ジョージ自身もそうです。

ジョージは目の前の仕事に自分なりの信念を持って、夢中で走り続けてきたからこそ、気付く暇もなかったのかもしれません。

自らの築き上げてきたものに気づき、かけがえのない存在に気づいたとき、ジョージは心からもう一度生きたいと願います。

 

おわりに

久しぶりにぼろ泣きしました。

大人になってから観たほうが痛烈な感動をもたらす映画だと思います。

誰もが自分らしく生きられればそれは理想ですが、実はとても難しいことなのではないでしょうか。

大人になればなるほど、自分の意に染まない道も、思っていたより華々しくない選択肢も取らなければならない時が来ます。

そんな中でも、誰かの人生を大きく変えたり、かけがえのない存在に出会うことは絶対にできる、と激励してくれるような映画でした。

名作過ぎて毎年年末にアメリカで放映されているらしいのも納得の作品です。

 

  

 

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