本と映画と時々語学

書評、映画評、時々語学学習や時事ネタなど書き綴りたいと思います。

映画『ヒトラー 最期の12日間』

第二次世界大戦下でドイツの敗戦間際、 ベルリンで繰り広げられていたヒトラー政権最後の一幕を描いた映画です。

冬の景色が印象的でした。

 

 

あらすじ

ソビエト連合軍が迫る敗戦間際のドイツ・ベルリンで、ナチス首脳たちは地下壕で過ごしていた。

連合軍の攻撃を止めるすべは最早残されておらず、 希望を捨てて飲んだくれる者たちもいれば、政権の滅亡と敗戦を前に緊迫する幹部たちもそこで暮らしていた。

ヒトラーは長年の愛人であったエヴァ・ブラウンとささやかな結婚式を挙げ、その後自殺することを決心した。

彼の忠臣で、ナチス政権の宣伝相であったゲッベルスも、結婚式の証人となった後に家族もろとも死を選ぶ。

ヒトラーの若い女性秘書トラウデルは、ナチス政権の最期の日々と、ベルリンの戦いを目撃することになる。 

 

 トラウデルの反省

 本作の語り手である総統秘書トラウデルは、ミュンヘン出身の二十歳そこそこの女性です。

映画は彼女が総統秘書になるべく面接を受けるところから始まりますが、採用が決定した時のトラウデルはとても喜んでいます。

国のトップであり、第二次世界大戦で当初ドイツを電撃的勝利に導いていたヒトラーの下で働けることを純粋に喜んでいたためでした。

ベルリンにソ連軍が迫りつつある時も、ヒトラーエヴァゲッベルス一家のことを心配しています。

彼女はナチスの政策や戦争について疑問を持ったことはなく、よってヒトラーや政権幹部たちに反感を抱いたこともありませんでした。

この映画がトラウデルの反省の台詞で始まり、また終わるのは、かつての自分について後悔があるためです。

若かったから過ちに気づかなかったのは仕方がないと思っていたが、同い年で、学生でありながら反ナチ活動に従事し処刑されたゾフィー・ショルのことを知り、何も知らなかったことを反省したと語られています。

 

ゲッベルス一家

ゲッベルスヒトラーの最も重要な部下の1人です。

彼の妻と子どもたちも地下壕に避難しており、数ある登場人物の中でも印象的な家族でした。

ゲッベルスは総統の忠臣でありながら、家庭では静かな夫であり父親です。

彼の家庭で最も力を持っているのは妻であるゲッベルス夫人で、家族ぐるみの付き合いがあるヒトラーからも「ドイツで最も強い母」と評されています。

彼女は子どもたちを厳しく躾け、ナチスドイツの模範像である強く教養の高いアーリア人に育てようとしていました。

そんな妻の横で、ゲッベルス自身は大して自分の考えも持っていないように見えます。

家庭だけでなく職場でも、彼は上司である総統に正面切って意見することはなく、穏当に、減点しないようにやってきた官僚タイプに見えます。

(真剣に仕事をしている官僚の方に対して失礼な形容詞で申し訳ありません)

 

ゲッベルス家とナチス

劇中のゲッベルスの振る舞いは、ナチス時代を理解する重要な手掛かりの一つです。

ナチス政権下では、何人たりとも政権や政策に異を唱えることは許されず、全体主義と、そこからくる同調圧力を拒むことはできませんでした。

その反省から、ドイツでは終戦後、全体主義を克服できる人を育てることを試みてきました。

全体主義を阻止できる人とは、自分の頭で考え、人道的に間違ったことには否と言える人である、との信念のもと、そうした人を育てる教育が行われているとのことです。

「こうするべき」と教え込む教育から、「どうするべきか」を自分で考えられるようにする教育へと方針転換したわけで、教え込む内容を「戦争するべき」から「戦争するべきでない」に変えるだけよりも合理的に思われます。

ゲッベルス夫人が劇中で実践しているような「聞き分けの良い」子を育てる姿勢は、少なくとも私が留学した頃のドイツではドン引きされること請け合いです。

少なくとも子どもを一人の人格としてみとめ、自主性を重視するような姿勢には全く見えないからです。

ヒトラーの周りはゲッベルスを始めとしたイエスマンで固められているように、日本でも「こんなの間違ってる」「無謀だ」と言える人がいないまま、戦争に突入し、戦況が泥沼となりました。

実際、追い詰められた状況でブチ切れるヒトラーに対し、何も言えないおじさんたちが意気消沈して突っ立っている光景は、妙な既視感があって恐ろしいばかりです。

 

ベルリンの戦い

終戦間際のドイツの首都ベルリンは、 イギリス空軍からの空襲と、ソ連軍による陸路での進撃とで凄まじい荒廃が進んでいました。

ヒトラーが自殺し、ゲッベルス夫妻も子どもを死なせた後に命を絶ち、トラウデルをはじめ生き残った人員はベルリンの激戦地区を脱出します。

 最早ソ連兵のいない場所などない中で、彼女たちが淡々と町を抜けようとする場面などは緊迫感に溢れています。

第二次世界大戦の加害者として名指しされることの多い国ドイツですが、このベルリンの戦いでは破壊された町で路頭に迷ったり、強姦の被害を受けた人も多数いたということです。

ドイツの「被害者」としての面をたとえ一部分でも描いた映画は初めて見たように思います。

戦後50年以上の時間が経って、ようやくそうした面についても描写が許されるようになったのかもしれません。

 

おわりに

映画を観た後、ゲッベルスは宣伝相としての仕事をする中で、チェコ出身の女優と深い愛人関係になり、離婚しようとしたところをヒトラーに止められたという話を読み、更にぞっとしました。

ヒトラーは女優との愛人関係を止め、妻との結婚生活を続けるようゲッベルスに命じたため、妻はヒトラーに大層感謝したそうです。

劇中のヒトラーゲッベルス夫人の信頼関係はそういうことだったんですね…ていうかゲッベルスが本当に木っ端役人のイエスマンで何も言えない。

なお、ヒトラーの「話し方」については、『帰ってきたヒトラー』のほうが再現度が高いと思いますが、背格好は本作でヒトラーを演じたブルーノ・ガンツォのほうが真に迫っているかもしれません。

kleinenina.hatenablog.com

日本との相似点を主に書いていますが、ヒトラー夫妻やゲッベルス夫妻が自殺しても、その他のメンバーは脱出を許されているところは、 当時の日本では少し考えにくい状況かもしれません。

ナチス政権の人間模様や、終戦間際の状況について知るときにおすすめの映画です。

 

  

 

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