本と映画と時々語学

書評、映画評、時々語学学習や時事ネタなど書き綴りたいと思います。

映画『オール・アバウト・マイ・マザー』

スペイン映画を代表する作品をご紹介します。

ペドロ・アルモドバル監督の作品の「女性賛歌」としての特徴を備えた第一作と言えます。 

 

 

あらすじ

シングルマザーのマヌエラは、看護師をしながら大切な一人息子エステバンを育てていた。

しかし彼の誕生日、舞台女優ウマ・ロッホのサインをもらおうと彼女の車を追いかけたエステバンは、交通事故で亡くなってしまう。 

マヌエラはマドリッドを去り、かつて暮らしていたバルセロナへと発ち、旧友のアグラードに再会する。

教会のシスター・ロサの助けを得ながら仕事を探していたが、ふとしたことから舞台女優ウマとニナの付き人となる。

マヌエラは自らの人生を振り返る中で、 ウマやロサとの出会いを経て新たな一歩を踏み出していく。

 

様々な「母」ジェンダーのありかた

エステバンとの辛い別れを乗り越えようとする主人公マヌエラの他にも、この映画には多数の女性が登場し、そのうちの何人かは母親です。

シスター・ロサはそりの合わない母親との関係がなかなか改善しません。

そんな中、バイセクシュアルで豊胸手術済みの元男性・ロラとの子どもを身ごもります。

母という役割から突如引き剥がされ悲しむマヌエラ、

不安定でマヌエラに頼りがちなロサ、

実の娘にもよそよそしくしか接することのできないロサの母、

母子のかたちは三者三様です。

彼女たちを取り巻く登場人物もまた多様で、そしてとにかく濃い。

ロラと豊胸手術を経験し、女として美の理想を追求するアグラード、

「男と女の嫌なところを合わせたような」人物ロラ、

年下の恋人ニナに夢中なレズビアンのウマ、

才能はあるがわがままで奔放な若手女優ニナなど。

アルモドバル監督の映画の重要な要素に「女性賛歌」があるとよく言われますが、本作は特にそれがわかりやすい作品です。

同様に女性がほとんどの役を占める映画に『ボルベール』があります。

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それでも人生は続く

この映画の女性たちの共通点は、皆ままならぬ人生に直面しながらも、何とか生きているということです。

ままならん事態の内容は子との死別、病気、薬物依存などで、控えめに言ってままならなさのレベルが高すぎます。

でも彼女たちは、友人の言葉に励まされたり、仕事を全うしたり、互いに助け合いながら苦難も笑い飛ばして生きていく。

下ネタを肴に昼間からお酒を飲みながら、また仕事に出かけます。

赤を基調とした明るい映像の美しさもあって、そこにある状況の大変さの割には閉塞感や絶望感、湿っぽさがありません。

もちろん泣いて悲しみを表現することもあれば、

心配してくれた人を相手に冷静になれない時もあります。

でも、そうした場面を交えながらも、「様々な人生のうちの一つ」として映すことで、それが唯一無二の描写対象にはなっていません。

群像劇だからこそ、一人の人物に深入りしすぎず、すれ違う人生の一場面として客観性をもって表現されている気がします。

もし小説だったら、映画では詳しく説明されずさらっと画面に映るだけのことも、活字ですべて説明しなければならないので、心理描写がくどすぎる作品になったかもしれません。

映画だからこそ、一歩引いて彼女たちの人生を次々に眺め、でも温かい視線を基本失わないというバランスが表現できるのだと感じました。

 

他作品のモチーフ 

本作では、冒頭でエステバンとマヌエラが観ている映画『イヴの総て』、同じく2人が観に行く舞台『欲望と言う名の電車』など、他の作品がモチーフに織り込まれています。 

イヴの総て』をまだ観たことがないのですが、「女性であることの悲劇を描いた作品」と聞いたことがあるので、本作との対比として用いられたのかもしれません。

劇中の展開が一部、『イヴの総て』に似ていたというのもありますが。

『欲望と言う名の電車』は、ブランチの悲壮な運命を描くという主題のほか、妹の夫コワルスキーを人間の中にある野蛮さの象徴として描いています。

マヌエラに「男と女の嫌なところをあわせたような」奴だと言われたロラが、昔コワルスキー役を演じていたというのも納得でした。

 

おわりに 

アルモドバル監督を国際的に有名にした本作は、アカデミー賞外国語映画賞カンヌ国際映画祭監督賞などを受賞しています。

群像劇と言うこともあって、一言で「こういう映画です」と紹介することが難しく、どこが感動ポイントなのかも簡単に表せないのですが、観終わった後は何だか元気になれます。

人生のままならなさを乗り越えたいすべての”女性”にお勧めする映画です。

 

 

 

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