映画『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』
時間をどう過ごして行くかについて考えたくなる、ヒューマンドラマ兼ラブコメディをネタバレしつつご紹介します。
Twitterで沢山の10代・20代の映画ファンから好きな作品として支持されていたので、気になって観てみました。
あらすじ
イギリスはコーンウォール出身のティムは、21歳の新年に父からある秘密を打ち明けられる。
彼の家系の男性は皆、過去にタイムトラベルできる能力を持っているという。
信じられないティムだったが、やがてタイムトラベルの力を利用して恋人を得たいと奮闘するようになる。
実家を出てロンドンで働き始めた彼は、望み通りタイムトラベルの力を借りて、意中の女性との恋をスタートさせた。
全て上手くいくかに見えた人生だったが、しばらくして彼はタイムトラベルでは解決できない問題に直面してしまう。
幸せな愛の物語
本作が魅力的な理由は、第一に笑いの沢山詰まったラブコメディとしての完成度です。
恋人が欲しいという若者らしい感情からスタートし、出会えた素敵な女性と距離を縮めるためにトライ&エラーを繰り返し、時にはそのために男友達を利用し、ぞんざいに扱い(ジェイとローリーの扱いが度々かわいそう)、何とか恋人になろうと手を尽くします。
奮闘ぶりや上手くいかない展開に思わず笑ってしまう場面は数え切れません。
恋人を作る以外にも、大家兼友人のハリーの職業的危機を救ったり、彼の誰にも知られない奮闘ぶりだけで別の映画が作れそう。
しかし、イギリスらしいひねったジョークを交えつつも、ティムが意中の人を褒めたり想いを伝える台詞はいつも一生懸命で温かいです。
メアリーと結婚してからは特に、彼女や彼女との子どもを大切に思う気持ちが常に感じられます。
息の合ったメアリーとのやり取りは、いつも笑いの要素とお互いへの安心感があって、見ていて飽きません。
そんな2人の結婚式は、とんでもない悪天候に見舞われ、ゲストも主役の2人もずぶ濡れになる大混乱になります。
けれどティムはタイルトラベルして日程を変えるでもなく、メアリもーまた「別の日が良かった?」と聞かれても否定し、ただ大切で賑やかな思い出として結婚式の思い出をそのままにします(一部若干の補正は入りますが)。
多少大変なことが起こっても、この2人なら笑いあって乗り越えていけそうなことを象徴する場面だと思いました。
メアリーはレイチェル・マクアダムスが演じる優しく愛情溢れる女性で、ティムといる時の自然体な明るさや、彼の家族とも打ち解けている様子から、彼女の温かい人柄が伝わってきます。
戻れない時間を生きること
順風満帆かに見えたティムの人生ですが、ある日大事な妹キットカットが交通事故を起こして重傷を負います。
腐れ縁の恋人と長年上手く行っていなかったことからアルコール依存になり、起こしてしまった事故でした。
ティムはタイルトラベルで事態を解決しようとするものの、数年前に戻ってキットカットと恋人の運命を変えると、なぜか自分の娘ポージーが別人になってしまいます。
一瞬でも人生の経過が変わると、子どもを作る遺伝子が変わってしまい、タイムトラベル前とは違う子が生まれてしまうためでした。
ティムはタイルトラベルでの解決を諦め、事故後のキットカットを恋人と別れるよう諭します。
起こってしまったことから逃げず、今ある結果と向き合うしかない時があるのだと実感させられます。
大好きな父が不治の病に冒されたとき、そして亡くなった後も、この「子どもが生まれる前には戻れない」という展開が重要な鍵を握ります。
父の体を冒す肺がんは喫煙によるものですが、ティムが生まれる前からの習慣なのでタイムトラベルして変えることはできません。
そして、死後もタイムトラベルして生前の父に会うことはできるけれど、その後に子どもができれば、もう二度と会えなくなってしまうためです。
タイムトラベルが教えるもの
ティムの父は、何気ない1日を普通に過ごした後、その1日をもう一度生き直すことをティムに勧めます。
「1度目は忙しさや慌ただしさで気づかなかった小さな良いことに、2回目では気づくことができるから」です。
しかし、キットカットの事故や父の死によって、特別な力があっても、人生には引き返せないポイントがあることに気づいたティムはあることを決めます。
1日1日を「未来からタイムトラベルしてきた自分がこの日を過ごす最後のチャンス」だと思って生きることです。
前半でタイムトラベル乱発のコミカルな場面が続いた後、静かに後半のシリアスな展開に移行しますが、教訓臭さや唐突感はなく、むしろ前半あってこそのメッセージです。
序盤から時々映し出されるコーンウォールの美しい風景が、終盤でたまらなく大切な思い出に結びつく場面があり、その意味でも全体の流れが巧みだと感心させられました。
おわりに
タイムトラベルで日々の何気ない問題を解決しようとしてみるものの、後々もっと大切なことに気づく、という展開自体はどこかで見た感があるかもしれません。
しかし、前半のコメディとしての面白さに浸るうちにティムやその家族やメアリーのことが好きになり、後半の哲学にもすっかり引き込まれていく、という流れの完成度が高かった。
ティムも、彼の両親や妹、不思議なデスモンド叔父、メアリーも、個性溢れる面白さを持っているうえに、お互いを大切に思う気持ちが映画全体の雰囲気を優しくしています。
特に、キレキレのイングリッシュジョーク全開の父は名言満載で、笑いあり涙ありのラブコメディ兼ヒューマンドラマにぴったりの人材です。
ティムの父を始めとした彼の家族が態度で伝えているように、別れやつまずきなど、悲しいことがあっても、大切な人と大切に過ごす時間があるから人生は愛おしいのかもしれません。
恋人やパートナーなど、大切な人と時間の過ごし方について考えたい時におすすめの映画です。
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