小説『ゲルマニア』
第二次世界大戦下のベルリンを舞台とした推理小説のレビューです。
主人公は元刑事のユダヤ人で、謎の解明に加えて、彼が無事生き延びることができるか、というところも重要なストーリーラインになってきます。
あらすじ
1944年のベルリン。
ユダヤ人のオッペンハイマーは、ナチス政権の政策により刑事の職を追われ、アーリア人の妻とともに倹しい生活を送っていた。
彼はある夜、極秘裏に殺人事件の現場へ同行を求められる。
ベルリンで続いている、女性を標的とした猟奇殺人の捜査に加わって欲しいと依頼されたのだ。
彼はナチス親衛隊員フォーグラーの監視のもと、独自に捜査を行うことになる。
緻密な時代ミステリー
ナチス政権下のベルリンという舞台をフルに活用したミステリーです。
女性を標的とした殺人自体は時代に関係なく起こりそうなものですが、この事件については第二次大戦中のドイツならではの要素が絡んできます。
特殊な状況を巧みにストーリーの要素に取り入れていること、
優秀な元刑事オッペンハイマーによって、謎解きが緻密に丁寧にされていくこと、
主にこれら2つによって完成度・満足度の高い推理小説になっています。
奇妙な友情
オッペンハイマーと、彼の監視役として行動を共にする親衛隊大尉フォーグラーの間には、当初敵同士の関係しかありませんでした。
しかし、2人で捜査を進めたり、危険な状況を打破したりしているうちに徐々に信頼関係が育っていきます。
立場上、フォーグラーが表立ってオッペンハイマーの民族的背景を肯定することはありませんが、
1人の人間同士の関係が築かれれば、民族や人種などグルーピングによる関係性は薄れていくことを自然に描写していると感じました。
また、妻のリタや女医の友人など、オッペンハイマーを助ける個性溢れる面々も見どころの1つです。
詳細な生活の描写
本作のもう1つの特徴は、第二次大戦中のドイツの暮らしについて詳しく描写されていることです。
空襲の様子や配給の状況、平時の日常生活との違いなど、作者のギルバースは当時のベルリンに暮らしていたんじゃないかと思うほどの具体性でした。
詳細な描写により、オッペンハイマーたちの暮らす背景がリアリティを持ち、物語全体の説得力が増しています。
おわりに
欲を言えば犯人の動機にもう少し掘り下げが欲しかったところですが、謎解きに引き込まれてしまってそれもあまり気にならないくらいでした。
ハードボイルドなミステリーを読んでみたいときにおすすめの一作です。