本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

小説『椿姫』

フランス文学を代表する小説の1つをご紹介します。

純愛を描いた名作文学と言うと、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』が有名かと思いますが、個人的にはこちらの方が好きです。

すべての小説の中でもかなり上位に食い込む作品です。

 

あらすじ

パリの街中で、ある屋敷の中の家財が競売に出されていた。

屋敷の女主人が亡くなったためだったが、その女主人とは名の知られた美しい娼婦だった。

語り手である私は、競売の会場をうろつく若い青年と知り合い、生前の彼女との関係を聞かされる。

それは無垢な青年アルマンの純粋すぎる恋心と、娼婦マルグリットの優しさが引き起こした美しくも悲しい恋の物語であった。

 

世間知らずなアルマン

アルマンはマルグリットのことを知るとすぐに恋に落ちます。

しかし、マルグリットは娼婦であり、伯爵のお気に入りの女性でもありました。

仕事以外で男性の相手をする事は本来難しい立場のマルグリットに、アルマンは心からの告白をし、お金の介在しない関係を築くように頼みます。

マルグリットは彼の純粋さをかってそれに応じます。

長く病を患っており、自分の人生が短く終わることを薄々感じていたからかもしれません。

ところが、アルマンは自分のものだけにならず、自分以外の相手との人間関係を断ち切らないマルグリットに苛立ちます。

恋人以外の人間とも会わなきゃ生きていけないので、ある意味当然ですが、マルグリットを好きな気持ちの強すぎるアルマンは怒りを抑えきれず激してしまいます。

 

社会性を保つマルグリット

何度も怒っては「許して」と泣きつくアルマンと、アルマンが理解しなければならないことを諭すマルグリットは、何度目かの喧嘩でようやく落ち着きます。

 「そりゃそうだ」と、マルグリットの膝に頭を埋めながら、私は言いました。「しかしぼくは、まるで気ちがいのようにあなたを愛してるんだ」

「そうだったら、あたしをそれほどまでに愛さないようにするか、でなかったら、もっとよくあたしと言うものを理解するか、どちらかにしてくださらなきゃだめだわ。…」

そして、2人で楽しい時間を過ごすうちに、マルグリットは自分を冒す病のことも忘れ、今までになかった幸せを味わいます。

マルグリットは美しさにより名前が知られていても、唯一無二の存在と思える相手を持ったことはなかったでしょう。

互いに本気の恋ができたのは彼女の人生で初めてのことだったに違いありません。

しかし、ある日アルマンの父親がやってきて彼女を諭します。

社交界の人間としてバランス感覚を残している彼女だったからこそ、アルマンの父の説得は彼女の心を動かします。

 

若く愚かな愛

別れを選んだ彼女に対し、アルマンがとった態度はお世辞にも大人と言えるものではありませんでした。

なんかこうして書いているとアルマンてほんといいとこないですね…。

 彼女同じりあるいは挑発するようなアルマンの態度に、マルグリットは憔悴していきます。

そして、アルマンとマルグリットの関係は、別離の後さらに最悪の形で終わりを迎えることになります。

 

アルマンは若く純粋ですが、マルグリットを守ってやれるだけの立場や、権力、経済力、バランス感覚などは、何も持ち合わせていません。

彼にあるのは純粋さと情熱だけです。

しかしそれだけでは、娼婦として生きてきたマルグリットを厳しい目で見る社交界において、彼女を守ってあげることはできませんでした。

そしてマルグリットは、自分が彼のそばにいるだけでアルマンの評判や将来性を奪ってしまうことが痛いほどわかっていました。

 

おわりに

身分や立場の違うふたりの恋愛と、社交界で生きていくことの折り合いがつかなかったことによる悲劇を、リアリティのある心理描写と共に描いています。

 マルグリットがとても好きなのでご紹介しましたが、前述の通りアルマンに対しては愚かな若者と言う言葉がぴったりだと思います。

彼ほど、「好きだけじゃダメなんだ」と言う言葉の意味を学んで欲しい人物は他にいません。

アルマンの情熱と、マルグリットの社会性を見ていると、この小説は純愛による悲劇を描いた物語であると同時に、男と女の噛み合わなさを描いた話とも言えると思います。

愛になり得なかった恋を読んでみたいと言う方にお勧めの1冊です。

 

 

椿姫 (岩波文庫)

椿姫 (岩波文庫)