映画『めがね』
久々に邦画のレビューです。
『かもめ食堂』の小林聡美、もたいまさこを迎えて作られた、ゆるやか非日常映画です。
劇中の風景が初夏や夏に観るのにぴったりだなーと思いながらご紹介します。
あらすじ
春先の南の島に、スーツケースを持った女性タエコが降り立つ。
携帯電話の電波がつながらない場所を求めて旅して来た彼女だが、島には観光地が全くないどころか、飲食店もほとんどない。
宿屋の主人ユージまでが「冷蔵庫にあるもの適当に食べてください」とのたまう商売っ気のなさに唖然とする。
たそがれるくらいしかすることがない島、
毎年カバン一つでやってくるという謎の女性・サクラ、
しょっちゅう遅刻する高校教員、
不思議な島のリズムにタエコはいつの間にか引き込まれていく。
南の島の都会人
序盤のタエコは「あーこの人首都圏から来たな」と一瞬でわかる都会人ぶりです。
やたらと距離感の近い島の住人達との付き合い方に戸惑い、
なぜ放っておいてくれないのかと、ちょくちょくイラッとしています。
朝ご飯も、夕ご飯も、宿の主人ユージや謎の女性サクラと一緒に食べるし、
まだ眠っていたいのに朝はふとんの脇までサクラが起こしに来るし、
運んでおきますよと言われたスーツケースがいつまでも外に置かれているし、
何だか都会人が苦手なものがずらっと取り揃えられている環境です。
しかし、ユージやサクラは自然体で、宿も開放的なインテリアで(特にキッチンは建物とすら言えないようなオープンな造り)、のびやかな雰囲気のある場所です。
マリンパレス
放っておいてくれない人間関係に耐え兼ねて、島にもう一つある宿マリンパレスへ移ろうと決めたタエコ。
しかし、そこは色あせたモルタルで塗り込められた無機質な建物。
さらに、建物の裏では何人もの人間が黙々と野菜作りに励んでいます。
宿の女主人だけが今風のヒッピーのような格好をして、満面の笑みで「自分で作った野菜を料理してみんなで食べるのが世界一美味しい」的な演説をぶちます。
張り付いたような笑顔が怖い。
この人以外全然楽しそうじゃないし。
もちろんすぐさま逃げ出すタエコ。
遠大な距離の道を、スーツケースを引きずりながらユージの宿へ戻ります。
ゆるやかな非日常
いくら真面目にやってても、休憩は必要です!
そうでしょ?
サクラの店でたそがれるハルナは自信満々にそう言います。
ハルナの場合は休憩のが長そうですが。
携帯の電波も通じず、貨幣経済すら離れることもある島で、タエコはゆっくりとたそがれる心地よさを習得していきます。
たまに邦画のテンポはゆったり過ぎて退屈だと感じてしまうことがありますが、この映画は不思議とそんなことがありませんでした。
緩やかにのんびりした時間が流れていても、
せりふのない時間があっても、
それがこの島の雰囲気を伝えるのに必要な間なので違和感がありません。
作品のこうした良さを伝えるのに、もたいまさこさんの「雰囲気で語る」演技が絶大な力を発揮しています。
マリンパレスから脱走してきたタエコと、サクラが出会う場面は、この映画きっての名シーンの一つです。
おわりに
どおりで外国のような南国っぷりを醸し出しているわけですね。
それでいて、食事の場面で映し出される料理が素朴で美味しそうな家庭料理なためなのか、なぜか懐かしさも感じてしまう映画でした。
俗世を離れてゆったりしたい気分の時におすすめの映画です。