映画『デッドマン・ウォーキング』1
死刑制度をテーマとしたハリウッド映画のレビューです。
ドラマ『ウォーキング・デッド』とタイトルが似ていますが、内容は似ても似つかない。。。
原作は修道女ヘレン・プレジャンによる同名のノンフィクション小説。
主演のスーザン・サランドンはこの作品でアカデミー賞主演女優賞を、ショーン・ペンはベルリン国際映画賞の男優賞を受賞しています。
死刑囚の姿だけでなく、遺族の処罰感情にも向き合っている作品です。
ネタバレしますので、まだ観ていない方はご注意ください。
あらすじ
貧困地区の施設で働くシスター・ヘレンは、死刑囚マシュー・ポンスレットから上告審のための助力を請う手紙を受け取る。
面会したマシューは、死刑執行までに判決を覆すための弁護士を自力で雇えないため、誰かの援助が必要だと言う。
実際に被害者の若いカップルを殺したのは、共犯者カールであり自分ではないのだとも。
ヘレンは、共犯者カールが辣腕弁護士を雇って死刑を免れたことなども鑑み、マシューに弁護士をつけて死刑執行停止の嘆願を申し立てることを決める。
彼女は、遺族からの罵りに動揺したり、マシューの態度に翻弄されつつも、死刑執行停止を目指した法的手続きや、彼の精神面への配慮に尽力していくこととなった。
ヘレンと言う人間
マシューの支援者として嘆願や上告審のために奔走するシスター・ヘレンは、自らの人生を信仰に捧げることを決めた人物です。
しかし、上品に祈りを捧げるだけではなく、貧困地区に住み、そこの施設で働いています。
彼女自身は経済的にも不自由なく、優しい家族に囲まれて育っています。
生まれ育ってきた環境と違う場所に飛び込み、そこにいる人たちのために行動を起こしている、ガッツのある人物だということがわかります。
また、「どんな人間でも殺されて当然なことはない」という信念はありますが、いわゆる「頭の中お花畑」な人間ではありません。
その証拠に、マシューが訴えられた2人のティーンエイジャー殺害事件の遺族にも正面から向き合っています。
死刑廃止論と遺族感情
死刑廃止論者に拒否反応を示す人は少なからずいます。
特に日本では、死刑制度への支持は高いですね。
主な理由としては、被害者や遺族の処罰感情に沿った刑罰が必要だと考えられているためでしょう。
劇中でヘレンは、死刑囚のために行動していることを知った周囲の人から、「そんなことしなくても」と言われたりします。
遺族から面と向かって直接「我々を助けるよりあんな極悪人に寄り添うのか」と責められる場面もありました。
殺されたティーンエイジャー2人の遺族と話に行ったヘレンは、
息子の喪失に今なお苦しみ、夫婦の間に問題を抱えている父親や、
娘を理不尽な理由で失って悲しみに暮れる夫婦と対面します。
特に娘ホープを失った夫婦の悲哀は深く、死刑こそがマシューに相応しい刑罰であると信じ、「動物以下の彼に人間としての価値を見出す」ヘレンに激しい拒否反応を見せます。
夫婦は警察から、ホープの遺体を見ることはショックが大きすぎるのでやめた方が良いと止められたそうです。
しかし、どうしてもホープ本人だと言う確証が欲しかった母は、歯科医である弟に頼み、歯で彼女本人だと確認してもらいました。
彼は娘の口をこじ開けて
中の泥を掻き出すまで
死刑反対派だった
惨い殺され方をした被害者のことを知ってなお、マシューは死刑になるべきでないなどと思うのか?
死刑支持の理由の1つである遺族感情にも言及している作品です。
また、息子を失ったドラクロワ氏は、子どもの死の受け止め方が違う妻との間にすれ違いが生じ、離婚することになります。
子どもを失った夫婦の離婚率は高いことを彼自身が話していました。
殺人による理不尽な死は、被害者の人生だけでなく被害者を大切に思っていた人々の人生も奪ってしまうことを示しています。
人を殺すことは死刑であっても認められない、とする信念を持ちながらも、ヘレンは激しく動揺します。
レビューが長くなってしまったので、次の記事で続きを書きます。