本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『ティファニーで朝食を』

自分に自信を持って生きたいと願っているすべての方に贈る名作映画です。

タイトルは誰もが知っているけれど、詳しいストーリーや結末を知っている人は、実は少ない作品なのではないでしょうか。

私自身、事前知識がない状態で観たところ、ラストで号泣しました。

余すところなく魅力をお伝えしたいのでネタバレでお送りします。

 

 

あらすじ

 ニューヨークの美しい娼婦ホリー・ゴライトリーの住むアパートに、駆け出しの若い作家ポールが引っ越してくる。

明るく自由奔放なホリーに惹かれるポールだったが、互いに親しくなってきたある日、ホリーの夫だという人物が現れる。

彼が知る限りニューヨーク社交界の華でしかないホリーは、かつてテキサスで町医者の妻をしていて、子どもまでいたという。

彼女は家出してニューヨークに出てきた人物だった。

  

ホリーという人物

ホリーは美しいだけでなく、ニューヨークの富豪やマフィアとも繋がりを持つ人物です。

パーティーで明朗快活に話し、華やかな衣服を纏い、大都会ニューヨークの生活を楽しんでいます。

天真爛漫、天衣無縫と言った言葉がぴったりの、魅力あふれる女性です。

しかし、都会的な彼女がテキサスで町医者の妻ルラメーであった過去が明らかになり、ポールは戸惑います。

ホリーは固い決意をもって、テキサスに戻る気はないことを夫に言い聞かせ、夫もひとまずは納得して帰ったため、ポールとの今生の別れは避けることができました。

その後ホリーは、それまで軍隊にいた兄フレッドが近々除隊するのを知ったことから、彼と暮らすためのお金を工面しようとします。

ホリーにとって兄は特別な存在で、親しみを感じたポールに兄の姿を重ねてフレッドと呼ぶほど。

ホリーはそんな兄と暮らせるようにするため、ポールからの好意には気づきつつ、彼女自身もポールに惹かれていると気づきながらも、社交界で見繕った富裕な男性と親しくなることでお金を確保しようとしていました。

 

名前のない猫

 ホリーは名前のない猫を飼っています。呼ぶときはcat, catと呼びかけていますね。

名前がないと言うことは、あらゆるしがらみから自由であるとともに、確たる実態を持ちえないということでもあります。

ホリーはかつてルラメーと言う名前で暮らしており、ルラメーの夫や家族とともに、ルラメーとしての人生を営んでいました。

ニューヨークに来てからはホリーと名乗り、華やかな社交界のメンバーとして暮らしています。

名前を脱ぎ捨てる時に、彼女は新しい人生を生き始めたわけです。

しかし、名前を変えれば何にでもなれるのであれば、一貫した名前を持たない人物は、人生において蓄積がなく、他人との確たるつながりもなく、何者にもなれない人生しか歩めないのではないでしょうか。

「こんな自分は要らない」と名前と過去を脱ぎ捨ててきたとしても、それが自分の人生であったことは紛れもない事実。

実際、ルラメーだった頃の人生の一部(夫との生活、兄と暮らしたいという思い)はホリーになって自由に生きていても追いかけてきました。

自分の名前を変え、猫に名前を付けない彼女は、人生を固定化する名前という存在を避け、束縛されることを嫌う自由奔放さを象徴しているようです。

 

これまで生きてきた自分から逃げないこと

マフィアとのつながりが世間に騒がれ、誤解を受けたことで、富豪と結婚して南米に渡るというホリーの青写真は実現できなくなってしまいます。

悪い評判のある女性では、やんごとなき自分と結婚するのに相応しくないと突き放されたためです。

自暴自棄になって猫を放り出した彼女に、醜聞が広がっても見捨てず傍にいたポールは、真剣な言葉をぶつけました。

君の名が何だろうと君には勇気がない
人が生きてることを認めない 愛さえも
人のものになりあうことだけが幸福への道だ
自分だけは自由の気でいても生きるのが恐ろしいのだ
自分で作った檻の中にいるのだ
その檻は南米でもテキサスでもついて回る
自分からは逃げられないからだ

 ホリーは自分を束縛する名前から逃れようとしてきました。

束縛といえば聞こえは悪いですが、名前だけでなく、仕事や、大切な人との人間関係や思い出も、ある意味では人を束縛し、ひいては人生を形作るものです。

このまま多少一緒に過ごしたとしても、それら一切を投げ捨ててしまえるホリーの考え方が変わらない限り、真に幸せにはなれないとポールは考えたのでしょう。

実際、彼女のことが大好きな夫ゴライトリーのこともホリーは断ち切れたわけですから。

ポールとの思い出(図書館で彼の著した本を探したこと、景品の指輪にティファニーで名前を入れてもらったこと)すら投げ捨てて、新しい名前になるかもしれない彼女に、本気で向き合った言葉でした。

この後、雨でずぶ濡れになりながら2人で猫を探し、無事に見つかった猫を抱きしめる場面は本当に感動的です。

ホリーはきっと、他の誰でもない1人の人間として、ポールの愛を受け入れ、生きていく決意ができたでしょう。

 

おわりに

 ホリーが男性からの愛を真剣に受け止めず、時には無碍にする姿勢も、自分を束縛しないための術なんだとわかってくると、ポールの言葉も特別な重みを持って響きます。

60年代の色鮮やかなファッションや、日本人アーティストの隣人ユニヨシ(アメリカ映画史上最も恥ずべき差別的描写との指摘がある)など、他にも見るべきポイントはあるのですが、今回はホリーとポールの関係に絞ってご紹介してみました。

笑って泣けるラブストーリーをお探しの方に、強くおすすめしたい映画です。

 

 

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