本と映画と時々語学

書評、映画評、時々語学学習や時事ネタなど書き綴りたいと思います。

映画『横道世之介』

東京と長崎を舞台とした邦画をご紹介します。

吉田修一の小説を、沖田修一監督、高良健吾主演で映像化した映画です。

学生時代を懐かしく振り返りたい方、ゆるりとした邦画を楽しみたい方にお勧めです。

ネタバレしながらレビューを書きます。 

 

 

あらすじ

横道世之介は高校を卒業後、法政大学に通うため長崎の実家から上京して一人暮らしを始める。

これまで一緒に暮らしてきた家族や友人と離れ、世之介は新しい友人知人や、気になる女性と出会う。

アルバイトやサークル、ほどほどに授業をこなしながら、世之介や友人たちは、その後の自分を作ることになる経験を緩やかに積んで行く。

 

大人になること

世之介の大学生活におけるゆるめな成長記、とも言える描写が続きます。

世之介がのらりくらりと生きている様子は基本的にポジティブで、暗いところのない性格のため、安心して観ていられます。

友人から一世一代のカミングアウトをされても「ふーん?(それがどうしたの)」というリアクションだけで済ませる器の大きさも持ち合わせています。笑

春には知り合いに誘われるまま特段活動内容に興味のないサークルに入り、

夏には冷房のある友人の家に入り浸り、

何かよくわかんないけど夏休みが明けて冬学期が始まり、

という、どこにでもいそうな大学生の生活が繰り広げられる映画です。

一方で、運転免許を取り、男友達の隠された一面を知り、友人の妊娠を知り、高校時代の元カノと再会したり、難民に出くわしたりしながら、確実に大人になっていきます。

基本的に楽しく過ごしている日々の中でも、1人の人間としての決断をしたり、1人でできることを増やして行ったりします。

 

学生時代というのは、振り返ってみるととても不思議な時間です。

高校生の時はティーンエイジャーかつ少年少女という看板を背負って歩いているのに、大学に入った途端に半分大人になったかのような自由を手にします。

でも、多くの人はまだ親のお金で生きていくことを許されていて、子どもなままの自分を持て余したりもしました。

そんな中途半端な状態のなかではあっても、後の自分を作ることになる経験を積むのも学生時代でした。

世之介の場合も、夏休みに故郷の海岸で起こった出来事が友人への態度に影響を与えます。

祥子も後々の進路の選択にこの経験が絡んできます。

学生時代とは、色々な世界を知る猶予期間が与えられた学生と、それを取り巻く人同士が、緩やかに互いの人生に影響し合っている一方、就職活動や周囲の人との向き合い方など、大人としての決断が求められるようになる時期かもしれません。

 

なお、世之介の学生時代の設定はバブル期になっていますので、携帯電話もハイブリッドカーもありません。

世之介たちと同世代の方にとっては懐かしさの感じられる描写も多いのではないでしょうか。

 

学生時代を終えた後

映画は、世之介たちの学生時代と、大学を卒業して何年か経った後の世界を行き来しながら展開します。

祥子や他の友人たちはそれぞれの道に進み、多くは昔想像もしなかった状況で暮らしています。

ただ、昔の経験や出会いが緩やかにつながって現在の自分につながっているので、たまに昔会った人やしたことを思い出したりしていました。

その中で、自分の人生が世之介と少し交差した時のことを思い出す、という場面が折に触れ出てきます。

感傷的になりすぎず、 過剰なドラマチックさは一切なく、ふとしたところで昔を思い出しているのが大げさすぎなくて良いです。

 

なお世之介自身は、現代パートには登場しません。

既に亡くなっているためです。

世之介の亡くなった事故は実在の鉄道事故で、線路に落ちた人を助けようとした写真家と、韓国人留学生が亡くなったというものでした。

実際の写真家の方をモデルにした小説というわけではありませんが、この事故自体は他にも映画が作られるなど大きな反響のあった出来事ですので、詳細をごらんになってみてください。

 

おわりに

 世之介のゆるりとした大学生活を観たあと、自分自身の学生時代を回想したくなる映画でした。

世之介のキャラクターがほのぼのとしていて、大学じゃないとこんな生き方できないよなあと感慨を覚えます。

サラリーマンになると皆ここまでの大らかさは維持できませんね。

周りの皆が世之介の緩さに「まったくもう!」と言いつつも面倒を見ているところが、彼の人徳を象徴する面でもあります。

 

また、吉高由里子演じるお嬢さま・祥子ちゃんも映画の温かさを増しています。

天真爛漫だけど時々ドキッとさせることも言う、という掴み所のない人物像に、彼女の不思議な感じがよく似合っていました。

婚前特急』でコメディエンヌとして光る物がある女優さんだと書きましたが、本作でもそのベクトルの才能が如何なく発揮されています。

お嬢さま役でも、「金持ち気に入らん」という気持ちに全くさせず、自然体で天衣無縫な雰囲気を余すところなく伝えていました。

 

大学時代の友人と一緒にもう一度観たい作品です。

 

 

  

 

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