本と映画と時々語学

書評、映画評など書き綴りたいと思います。

映画『容疑者Xの献身』

言わずと知れた探偵ガリレオシリーズの映画編第1弾。

いつもの福山雅治柴咲コウコンビのかっこよさもさることながら、堤真一の存在感が印象的です。

 

 

あらすじ

川沿いで中年男性の遺体が発見され、草薙刑事と内海刑事は捜査に乗り出す。

遺体となっていた富樫慎二なる男性は、離婚後、懸命に働いて生計を立てる元妻に金をたかっている、だらしのない男だった。

実は元妻の花岡靖子は、ある夜自宅を訪れた富樫と言い争いになり、殺意はなかったもののもみ合いの末に彼を殺してしまっていた。

犯人の疑いは当初花岡靖子に向けられたものの、やがて捜査は行き詰まってしまい警察は頭を抱える。

帝都大学教授の湯川は、いつものように警察から相談を受けて捜査に協力する。

そして、被害者の元家族である花岡母子の隣人が、大学の同級生石岡であることが判明する。

 

ドラマシリーズとの違い

ドラマのみどころは湯川教授と内海刑事の漫才ですが、映画では一貫して重々しい空気で、漫才どころではありませんでした。

ドラマ第2シーズンの放送後公開された映画第2弾『真夏の方程式』も終始シリアス。

真夏の方程式』はタイトル通り夏の話なので、真冬が舞台の本作よりはずっと明るい空気ですが。

この切替えは正解だと思います。内容的にコメディでお送りするのは難しい。。。

ドラマでは浮世離れした天才ポジションを占める湯川教授が友人を思う描写があるのも印象的です。

 

石岡と花岡母子

最大のみどころは、堤真一演じる石岡という人物です。

石岡は湯川の大学時代の同期で、互いにとって数少ない友人のうちの1人です。

彼は数学の研究者として将来を嘱望されながらも、家庭の事情で研究の道を諦め、数学教師になります。

学習意欲の低い高校の生徒が、勉強まして数学なんかに興味を持つはずもなく、石岡は仕事に生き甲斐を見出そうとは思っていません。

独身でパートナーや一緒に出かけるような友人はおらず、ただ淡々と毎日を送っています。

年齢的に、これから新しい友人が増える機会はなさそうだし、恋愛をしようともしていない。

質素だけれど明るく仲良く暮らしている花岡母子とは対照的な存在です。共通点といえば、同じアパートの同じ階に暮らしていることだけです。

その石岡が彼女たちを救い、警察の捜査を撹乱するために、ある謎を用意します。

助けても何の得もない相手をなぜ石岡は助けようと思ったのか。

我々観ている側も、花岡母子も、最後まで石岡の真意を思って揺れることになります。

 

石岡と湯川

帝都大学の学生だった頃、石岡と湯川は友人でした。仲違いしたわけじゃないけれど、今も頻繁に会っているという描写はなく、事件をきっかけに久しぶりの再会を果たします。

 湯川は物理、石岡は数学と、分野こそ違えど、2人は他の学生たちより抜きん出た能力を持っているという共通点がありました。そして、自分の専攻分野に夢中になるだけの意欲があった点も一緒でした。

湯川は大学に残り、研究を続けて教授になります。一方、石岡は数学の道を離れて高校の教員になりました。

そして、湯川は草薙という友人がいたり、時には内海と漫才をしたりしていますが、石岡はガチぼっちのようです。

かつて同じように学問に夢中になっていた2人が、今では全く違うポジションにいることが淡々と描かれます。

石岡の用意した謎を解こうと挑むのは湯川ですが、これまでの人生で諸々の夢を諦めなければならなかった石岡のトリックを見破ることは果たして正しいことなのか、観ながら考えさせられてしまいます。

これ以上のネタバレを控えるために書くのはここまでにしてみますが、私だったら、謎の全容に気づいても明かさないラストを描くだろうと思います。

そこで空気読まないのが文系人間の想像の及ばないところです(偏見)。

でも、そこで手加減しないことが湯川にとっての石岡に対する誠意なのかもしれません。

同じ学問の徒だった身として、持てる限りの知性で勝負し、解き明かした事実に向き合うことが、疎遠になってしまった友人への最後の向き合い方だったのではないかと思います。

 

まとめ

ラストでタイトルの意味がわかる映画です。

ガリレオシリーズはドラマも映画も小説もほぼ全て楽しみましたが、解いても誰も幸せにならないんだから謎解きすんなよ!と思った話は後にも先にもこれだけです。

上では書かなかったけれど、松雪泰子が花岡靖子を演じたのはかなりのはまり役だったと思いました。

綺麗さの醸し出す非現実感がありつつも、薄幸の美女感もしっかりにじみ出ていて、ナイスバランスだった。

そして、いつも頼もしい社会人を演じているイメージの堤真一が、地味で暗くて無口な男性になりきっているのは驚きでした。

スクリーンの中で背景に溶け込んでしまいそうな存在感の希薄さが、社会の無名の一員として埋もれた姿をこれでもかと体現しているようで、観ているだけで切なくなりました。とくに福山雅治と並んだ時の絵面が。

俳優さんは画面の中で目立つだけではなく、目立たなくなる演技もするんだと思って衝撃的でした。

人間って何なんだ、愛って何なんだ、と考え込んでみたいときにお勧めの一本です。

 

 

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